お世話になります。ヨーロッパ女子ひとり旅専門家のカジヤマシオリ(@Kindermer)です!!
ただいま、名古屋ボストン美術館では…
「ボストン美術館の至宝展」が開催されています。
そのタイトルとラインナップに惹かれ、開催から1ヵ月してようやく行ってきました。
アメリカ・ボストン美術館のコレクションをメインに、特別展を展開している名古屋ボストン美術館。
今回も、タイトルどおりボストン美術館が所蔵する名作たちで構成された展覧会です。
「ボストン・オールスター」と名付けた名作たちを選りすぐって、80点を名古屋に持ってきた、というもの。
オールスターというだけあって見ごたえがありました。
古代エジプトから現代美術まで、幅広く揃っています。
作品リストだけ見ても「ほぉ~」ってなるラインナップです。
展覧会の特徴とともに、私が特に気に入ったものを紹介します。コインロッカー情報や混み具合、豪華な音声ガイドも…
満足度がかなり高い展覧会です。これから訪れる方の参考と、備忘録も兼ねて。
目次
アメリカ・ボストン美術館の特徴といえば…
展示は、古代エジプト美術から現代美術まで7つのセクションにわかれていました。
セクションごとに、代表するアーティストや概要なんかをざっくりまとめときます。
ホントにざっくりやで。
古代エジプト美術
ボストン美術館は、エジプトのギザやヌビアでハーバード大学との合同調査を行っていました。
古代エジプト美術のセクションは、その際に発掘され、エジプト政府から正式に寄付されたものがほとんどです。
付けひげ・額にヘビのついたメンカウラー像の頭部、金のマスクで有名なツタンカーメン像の頭部。
発掘された環境や調査背景などを知ると、もっとおもしろくなる。
中国美術
他のセクションに比べ作品数は少な目ですが、中国美術の展示もありました。
陳容という作家の「九龍図巻」は、全長10メートルにも及ぶ巻物の一部を公開。
権力のシンボルである龍が、ここでは9匹描かれています。
墨を散らすようにして水しぶきが表現され、躍動感のある作品です。
陳容による文章に基づく解説を見ながら、龍の様子を追っていくように展示してありました。
世界を駆ける龍たちは、自由で、イキイキとしています。
日本美術
ボストン美術館は、日本国外で最も日本美術のコレクションが充実しているうちのひとつです。その数約10万点!
ボストンの人々が、日本美術に魅了されていたことを十分に感じられる展示ばかりをピックアップしてありました。
日本で生まれ育った私が見ても、新鮮さを感じるような作品もありました。
曾我蕭白の「風仙図屏風」は、命の危険が迫る場面なのになぜかコミカルさがある…荒れ狂う風と水の中の描写がしっかりしてるから、その対比も楽しい。
また、日本の作品でありながら、自国では初めて公開されるものもあります。
17世紀の終わりから18世紀にかけて活躍した、英一蝶の「涅槃図」がそう。
彼の作品は人気かつクオリティも高いとあって、ニセモノが多いことでも有名ですが。
「涅槃図」は日本初公開どころか、本国ボストンでも25年前に一度公開されたっきりの作品。
その理由は、大きい作品だということに加え、経年劣化で動かすと作品に影響を及ぼす可能性があるから。
大規模な修復作業を施したうえで日本初公開、というわけです。1年近くにおよぶ修復の様子も紹介してありました。
いやー細かい。しっかり解体してある。
ちなみにこれも、フェノロサが購入→収蔵された作品です。
釈迦の入滅と、それを取り巻く人々が表情豊かに描かれています。
動物まで入滅を心から悲しんでいる。
空からは釈迦の母が雲に乗って駆け付ける。壮大な物語が展開された作品です。
ボストン美術館の日本美術コレクション、あなどるなかれ。
フランス美術
フランス美術セクションの作品たちは、彩りと光を湛えた、ボストンの人々の憧れの的。
セザンヌやドガ、モネなど、バルビゾン派や印象派と呼ばれる巨匠たちの作品が目白押しのセクションでした。
めっちゃ見ごたえあった…モネは4作品。ミレーのほっこり系作品は3点。
ゴッホの画業を説明するうえで欠かせない夫婦の作品も!(このセクションについては詳しく後述)
アメリカ美術
1870年に設立後、ボストン美術館は自国アメリカの美術も積極的にコレクションしています。
ヨーロッパの美術に追いつけ追い越せと、試行錯誤を重ねた様子が見て取れました。
新しい時代への希望に満ち溢れた作品が多かったですね。
そのうえでコピーではない、自分たちのスタイルを確立していったのです。
ジョージア・オキーフという女性画家の描いたふたつの作品は、とても興味深かったですね。
「人々を驚かせるために」「自然をそのまま描かないために」新しいことにどんどんチャレンジしていく。
まさに、アメリカン・ドリーム。
写真・版画
ボストン美術館が新しい芸術として、写真を積極的にコレクションしているのはとても興味深い。
版画だからこそ表現できる、繁栄のさなかにあるアメリカと取り残された人々の孤独感の対比。
ノスタルジーさの漂う作品たち。
このセクションをざっと説明するとそんな感じです(超ざっくり)。
現代美術
現代美術セクションでは、これまでの美術の枠を超え、シルスクリーンでの反芻やインスタレーションなど新しい表現方法が積極的に試されていることを伺えます。
ポップ・アートの巨匠、ヴォーホル作品も展示してありました。
「ジャッキー」は、ケネディ暗殺で喪に服す妻・ジャクリーンの写真をインクでシルスクリーンに反芻させた作品です。
ケネディ大統領の政治に希望を抱いていたヴォーホルによる、報道によって彼の妻・ジャクリーンの印象が一人歩きしていることへの疑問。
人のイメージまでも生産されるようなこの世の中…ヴォーホルの神髄を感じました。
芸術と多様さは切っても切れない関係なのです。
コレクターにフォーカスをあてて…
ボストン美術館にすばらしいコレクションには、功績者=コレクターの貢献があります。
コレクション収集に金銭的な協力をしたり、足りないところを補うように独自で絵画収集を行ったり…死後にコレクションをごっそり遺贈して。
コレクターがどのような経緯で作品を寄贈したのか、お金を寄付したのか、そういう点もしっかりと解説してます。
寄贈者の肖像画の展示もありました。
日本の大森貝塚を発見したモース、明治時代の東京大学で教鞭をとっていたフェノロサなど、日本史で勉強した人物によるコレクションも、功績として紹介されていました。
これらのコレクターは仕事の傍ら、日本の美術に魅せられ、各地を訪れて収集をしています。
ボストン美術館の誇る日本・中国美術のコレクションは、フェノロサ自身のものが多いですしね。
コレクターと作品のことを同時に知ることで、コレクションにかける熱い思いにも触れることができます。
見ているだけでは、コレクターの思いに気づくことなんてそうそうないから。
つよく惹きつけられた、フランス美術4選
私がとりわけ時間をかけて鑑賞したのが、フランス美術のセクションでした。
開館当時のボストンの人々がそうであったように、私もフランス美術に心酔しています。
フランス美術のマニアをうならせるクオリティの展示でした。
中でも特に心ひかれた作品を4つ、ピックアップして概要や感じたことをまとめておきます。
ヴェネツィア、サン・ジョルジョ島から見たサンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂/ウジェーヌ・ルイ・ブータン
「ヴェネツィア(以下略)」で描かれたのは、私がヴェネツィア滞在時に見たのとほぼ変わらない光景。
ヴェネツィア本島の対岸にある、サン・ジョルジョ島からの光景です。
こんな感じのアングルだったかな?
水上タクシーで本島に向かっているとき目にした美しさ、きらめきがよみがえってきました。
ゴンドラが大運河を行き交い、活気のある雰囲気が遠目からでも伝わってきます。
100年以上前の絵画にも、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂のドーム部分がくっきり描かれています。
ずっと変わってない…まるで異世界に誘う魔法をかけられたような体験。
その瞬間、ヴェネツィアへ妄想トリップ。
ああ、尊い。
ルーアン大聖堂、正面/クロード・モネ
ボストンではモネの作品がとりわけ高く評価されていたそうです。
広く知られている「睡蓮」をはじめ、モネの幻想的な4作品が展示されています。
日本の着物のような衣装、小道具がモチーフの「ラ・ジャポネーズ」が有名ですが、さすがに来日しなかったかー。
モネの作品を通して、ボストンの人々は異国・フランスに憧れを抱いていたのでしょうか…
私があえて「睡蓮」ではなく「ルーアン大聖堂、正面」を選んだのは、
カンバス上で混ざり合いたいと思うほどに、心ひかれる光景を描いていたから。
フランス・ノルマンディー地方にあるルーアン大聖堂。
実物はこのように、ゴシック様式で細部まで徹底的に作りこまれた建築です。
モネは、細部まで忠実に「威厳と風格」を再現するのではなく、時間帯によって異なる光のゆらめきを混ぜることで、陽炎のような非現実さを与えたのです。
そのゆらめきに心をつかまれました。
ルーアンへ2度の取材旅行に出かけたモネは、この大聖堂を繰り返し描きました。
角度はほぼ同じだけど、色彩を変えて時間帯や天候の違いを描き分けています。
このこだわりこそが、職人技。
銅製ボウルのタチアオイ/ギュスターヴ・クールベ
美術史の教科書には、荒れ狂う海を臨場感たっぷりに描いた「波」がよく載ってますね。
あれを見ると、自分自身も飲み込まれそうな錯覚に陥ります。
「波」の他にも女性の裸体や自画像、田舎の風景画もいっぱい残してます。
「銅製ボウルのタチアオイ」という作品から感じたのは、深い闇でした。
その闇から、目が離せなかった。
タチアオイという「花」がモチーフにも関わらず、彩りはない。
暗みが混じった赤。絶望、失意…おどろおどろしい。
でも、闇の部分でさえも美しいと感じてしまいました。
「郵便配達人ジョゼフ・ルーラン」と「子守歌、ゆりかごを揺らすルーラン夫人」/フィンセント・ファン・ゴッホ
展覧会の核とも受け取れる作品。
なんといっても、ゴッホに深い関係のある夫婦の肖像画が、並べて展示してあるのです。
1888年、パリから南フランス・アルルに移り住んだゴッホ。
ルーラン夫妻は、彼の暮らす家の近くに住んでいました。
ルーラン夫妻とその子どもは、たびたびモデルとして作品に登場します。
1888年末に有名な「耳切り事件」を起こし、街の病院に収容されたゴッホを弟・テオの代わりに見舞い、病状を伝えたのも郵便配達人ルーランでした。
だけど、収容されてほどなく、ルーラン一家はマルセイユに引っ越すこととなります。
作品を見ながら、どのような気持ちで夫妻との別れを受け入れたんだろうかと考えました。
ゴッホは、微妙に色彩やアングルを変えながら、夫妻の肖像を繰り返し描いています。
「ボストン美術館の至宝展」で展示されているものも、何パターンもあるうちのひとつ。
ルーラン自身の肖像画は事件の前、夫人はその後に描いたものです。
ルーランの肖像画にはいくつもの修正や試行錯誤の跡がみられ、夫人の背景には柄が描かれています。
二つを並べて鑑賞できる贅沢にしばらく浸っていました。
ゴッホはこのモチーフに、理由は何であれ執着していたんだろうなと。
この二つの作品からは憎しみや怒りは感じないので、ゴッホが彼らに好意的なイメージを持って描いていたことは間違いないと感じました。
ゴッホ美術館やクレラー・ミュラー美術館の音声ガイド原稿を書くうえで必死に勉強したこともあり、とても感慨深い出会いとなりました。
|
音声ガイドのナレーターは竹内結子
鑑賞当日に知ったのですが、音声ガイドは女優の竹内結子でした。
1台につき540円です。スタッフさんが二人がかりで装着してくれました(笑)
興味本位でレンタルしましたが、とても満足でした。
たいていの音声ガイドって、俳優やタレントによる豆知識解説+プロのナレーターさんの基本情報解説、って形式。
俳優やタレントの役目は、情感たっぷりに展覧会の世界観に引きずり込むことがメイン。
「ボストン美術館の至宝展」では、ぜんぶ竹内結子がしゃべってました。
途中で切り替わることなく、鑑賞を楽しくする情報をぜんぶ竹内結子が補っている。
竹内結子の、変に力が入ってないナレーションは、耳にとても心地よいのです。
作品との対話を邪魔せずに、そっと寄り添ってくれる感じ。包容力がすごい。
情報が多すぎてごちゃごちゃすることもなく、目を閉じて聴いても、世界がずっと広がっていく感じ。原稿書いた人と竹内結子の相性が良かったんだろうな。
私もそういう原稿が書きたいものです…(←美術館の音声ガイド原稿に無謀にも挑戦したことがある人)
ガイドの冒頭で、ボストン美術館のコレクションを「百科辞典」に例えていたのですが、まるで辞典のページをめくるかのように、どんどん引き込まれていく。
その世界観を体現したようなガイドでした。
音声ガイドは、MP3プレイヤー式。
展覧会の音声ガイドは、重くて大きいやつが多い。
首にネックストラップでかけると、重みでむち打ちみたく痛くなる。
「ボストン美術館展の至宝展」の音声ガイドは小さくて薄くて、ぜんぜん首に負担にならなかったです。
耳掛け式のイヤホンも耳が痛くならないし。
操作方法もMP3と同じだから、簡単でした。音声ガイドはぜんぶコレにすればいいのに。
鑑賞の際は、ぜひ竹内結子の音声ガイドとともに。
コインロッカー
名古屋ボストン美術館のコインロッカーは、100円硬貨が返ってくるシステムではなく、専用のコインをスタッフさんから受け取って鍵を閉めるシステムです。
インフォメーションの近くでスタッフの紳士(日によっては淑女かもしれない)がコインを渡してくれるので、それを受け取ります。
財布から100円を出す必要はありません。
「お荷物大変ですね、大きいロッカーは奥のほうにあります」という声かけにほっこり。
荷物や厚いコートがないほうが集中できて、どっぷり浸かれると思いますよ。
無料なのでさっさとロッカーにぶち込んじゃないなよ。
「ボストン美術館の至宝展」の混み具合は!?
私は、3月の半ばの平日3時半~、2時間くらいかけてじっくり鑑賞しました。
「ボストン美術館」のネームバリューほどの混雑ではなかったように感じます。
もちろんお客さんはいたのですが、超混みで人だかりができるほどではないけれど、さすがに貸切状態ではありませんね。
平日は19時まで鑑賞できるので、余裕をもって楽しめたというのもあると思います。
美術館の立地や展示内容的に、土日は混雑しそうです。さすがに待ち時間ができるほどではないと思うけど!
あ、チケットカウンターは2つしかありません。
混んでない時は問題ないのですが、土日はチケット買うのも長蛇の列な可能性があるので、それを踏まえた余裕のあるスケジュールが望ましいですね。
ボストン美術館のコレクションを通して、「異国を旅する」ように
とにかく見ごたえあって、質の高いコレクションばかりだったのでかなり長くなってしまいましたが…
私がこれだけ語るくらい、すばらしかったのですよ…
私の専門が西洋美術史なのでフランス美術のセクションにどっぷり浸かってましたが、どのセクションもめっちゃ面白い…!
2時間じっくりと時間をかけて鑑賞した甲斐がありました。
期間も2018年7月までということなので、おそらくもう一度見に行くと思います。
平日なら空いてるだろうし…!
|
ボストン美術館のコレクションに貢献した富豪・スポルディング兄弟。
こういう本で予習していってもいいと思う。
「ボストン美術館の至宝展」インフォメーション
期間:2018年7月1日まで
時間:平日は10:00~19:00、休日は10:00~19:00
休館日;月曜日(祝日は開館)
入館料:大人1300円(平日5時以降は1100円だよ!デートとか会社帰りに!!)
音声ガイド:540円(ナレーターは竹内結子!!)
公式サイト:http://www.nagoya-boston.or.jp/grand-final/treasure/
名古屋ボストン美術館 公式サイト:http://www.nagoya-boston.or.jp/
(金山駅前からすぐ!!アクセス便利!!)


コメント