お世話になります。ヨーロッパ女子ひとり旅専門家のカジヤマシオリ(@Kindermer)です。
ハンガリー・ブダペストの街並み・建物は、ヨーロッパ的であるのと同時に、どこかエキゾチックさを感じさせるものばかり。
中でも、ペスト7区の入り口・ドハーニ通りにあるシナゴーグでの時間は尊いものだった。
ヨーロッパ最大規模とも言われるバカでかい空間に、オリエンタルな異世界が広がっている。
目次
シナゴーグという「アジアでもヨーロッパでもないような」場所
シナゴーグは、ユダヤ教徒にとって大切な場所。祈りを捧げ、心をしずめ、人々が集う。
外壁は幾何学模様に組まれたレンガで飾られ、遠くから見てもエキゾチック。
ふたつの塔には玉ねぎ型のドームが乗っかっていて、こちらもよく目立つ。
ゴシック様式でもルネサンス様式でもない、ムーア様式という手法で建てられたシナゴーグ。イスラム風とスペイン風を融合させたもの。
ヨーロッパの優美さを感じなかったのは、これが理由だ。
ヨーロッパのブダペストにあって、ヨーロッパという枠に染まり切っていない場所という印象を受けた。
オリエンタルな別世界に誘われる
足を踏み入れた瞬間に、目の前に壮大な空間が広がっていく。
長椅子が3列、無数に並んでいる。
そりゃそうだ、エルサレムとニューヨークにあるシナゴーグに次いで大きいのだから。
ヨーロッパ最大級のだだっ広い空間に、包み込まれる。
とにかく、内装が細かい。
ひとつひとつ見入ってしまうほどに、細かい。
金銀のきらびやかさだけで作ったのではない美しさに、感動した。
天井に描かれた模様は、ひとつひとつデザインが違って、見比べるのがおもしろい。
いくつもぶら下がる照明も、デザインが凝っている。
サイドに作られた3階建ての空間にも、しっかりと目が届く。
なぜか、レトロさも感じた。
シナゴーグというよりも、イスラム世界の宮殿やモスクっぽさがあるように思える。
らせん階段は手すりにまで飾りがついている。
8角形の小さなステージの裏は、ユダヤ教の象徴であるダヴィデの星がしっかりと刻み込まれている。
このステージで、ユダヤ教の聖典の朗読を行うのだ。
シナゴーグの奥に設置された祭壇も、しっかりと見ておきたいポイント。
祭壇にもドームがついている。
白と金の装飾が、より手の届きがたい存在へと昇華させている。
祭壇の後ろにある大きなオルガンは、由緒あるもの。ハンガリー生まれの音楽家リスト・フェレンツも演奏したものだ。
かつてこのシナゴーグにはコーラスグループがいたから、こんな大きなオルガンが作られたという。
ロビーの天井裏のデザインも美しい。しっかりと装飾されている。
緑がかった青色に息をのむ。ずっと、上を見つめていたくなる。
ステンドグラスも、ダヴィデの星がモチーフとなっていた。
細部にまで、ユダヤ教の精神が尽くされている。
ホロコーストの犠牲者の名を刻む。
シナゴーグを出て、長い回廊をひたすら進む。
たどり着いたのは中庭。一帯が墓地となっており、2万人ものユダヤ人が眠っているとのこと。
壁を墓として使っているエリアもあった。ちなみに、日本のように食べ物や花をお供えするのではなく、石を供える文化がある。
特に身内でなくとも、供えることができた。
建物の裏側には、ヤナギのかたどった大きなアート作品が展示されていた。
ハンガリーの生んだ現代芸術家ヴァルカ・イムレが手掛けたものだそう。
まるで氷づけにしたかのように生々しい人間の銅像がよく知られているが、正直、このような作品は彼のイメージにはなかった。
ヤナギの葉には、ひとりひとりホロコーストの犠牲者の名前が刻まれている。
その数約40万人分。アート自身が、悲しみにくれているようにも見えた。
「ユダヤ人の身に起こった痛ましい史実が、二度と起きませんように」なんて一見、無責任ともとれるような想いをそっと寄せる。
ちなみにドイツ・アウシュビッツ収容所には、多くのユダヤ人に加え、LGBTや障害者も収容されていたという。
このことを知ると、ユダヤ人のたどってきた歴史は、他人事のようには思えない。
ヤナギのアートの下で、発達障害者というマイノリティである自分と、ホロコーストの犠牲者を重ね、想いをめぐらせていた。
シナゴーグ内や併設された博物館にも、ユダヤ教の歴史や功績者の紹介が。
なかなか内容が難しいけれど、この場所で知ることに意味があるんだと悟った。
シナゴーグ内:無料ガイドあり
「ユダヤ教のことなんてよく分からん!」
たしかに、日本人にとってはあまりなじみのないものだ。
そういう理由で遠ざけてしまうのは、とてももったいないことだと思う。
なぜなら、それ以上の感動に出会える場所だから。
知識がなくても心配ない。
シナゴーグの中では、世界各国の言語で無料のガイドツアーがおこなわれている。
特に予約は必要なく、何十人もが一度にガイドに耳を傾ける。
英語のガイドに耳を傾けるカジヤマシオリ。
ガイドの説明は、わかりやすい。
英語を母国語としない人が多く聞いていることを想定しての言葉選びだと思う。
ユダヤ教のことやシナゴーグの歴史を簡単に説明してから、建物内の装飾や構造を解説していく。
英語のほかにも、ドイツやイタリア、フランスやスペイン語などのガイドがあった。たしかほかの言語もいくつかあったと思う。日本語はない。
英語のガイドを必要とする人が多いからか、英語のガイドが聞こえるエリアは広めにとってあった。
英語のガイドは30分ごとに開始する。他の言語は1、2時間おきになることもあるようだった。
説明にはマイクを使わないので、人だかりができている英語のガイドは聞き取りづらい。
理解できるのなら、英語以外を聞くのをおすすめする。
説明をもとに見ていくと、もっと世界に浸ることができた。
しっかりとしたセキュリティチェック
床までもダヴィデの星。
ヨーロッパ最大規模のシナゴーグで人気観光地。かつ宗教的なスポットでもあるため、セキュリティチェックはぬかりない。
しっかりと人数をかけて、ひとりひとり荷物検査をしていた。
私も荷物を検査スタッフに預けると、なぜか男性スタッフのひとりがカバンの中身を凝視していた。
何だろうと思っていると、彼が見ていたのは無料のポケットティッシュだった。
赤と黄色で目立つキャプション。近所のパチンコのオープニングのお知らせ。
これが気になって、検査の手が止まってしまったらしい。
「…(ええと)」と私が彼を見ると、「ああごめん」という感じで荷物を渡してくれた。
無料でもらったものなので、「よかったらあげるよ?」と言うと大爆笑しながら受け取ってくれた。
ティッシュだとわかっていなかったらしい。おそらく、この無料ティッシュ=宣伝という概念がないので、私が説明するまで、何でこんなデザインのものを持ち歩いているのか謎だったようだ。
しかも日本語だと思ってなくて「チャイニーズ?」と聞かれた。
何のティッシュなのか聞かれたので、パチンコのものだと説明しようとするも…
言葉が思い浮かばなくて、「ジャパニーズカジノ!」と説明すると、また爆笑。
このやりとりがなんだかおもしろくて、お互いに終始大爆笑だった。
緊迫した雰囲気のはずのセキュリティチェックなのに、少し奇妙な出会いだった。
シナゴーグの点在する、ペスト7区
このシナゴーグがあるペスト7区は、戦前多くのユダヤ教徒が暮らしていた。
戦時中には、一部の区域にゲットー(ナチスの手によって、ユダヤ人が強制的に住まわされた居住区)も作られていた。
ここに住んでいたユダヤ人も例にもれず、ナチスの虐殺の犠牲になっている。
ペスト7区のシンボル的な存在は、やはりこのドハーニ通りのシナゴーグだ。
しかし、同じエリアの徒歩圏内の場所に、シナゴーグが点在している。
カジンチィ通りに面したシナゴーグは一面ブルーの内装が神秘的だし、対照的にルンバッハ通りに面したシナゴーグはピンク風の色合いがかわいらしい。
ユダヤ教徒が通う学校やコーシェル(ユダヤ教徒の食事のきまり)に沿ったメニューを取り扱うレストランも集まっている。
この地区の歴史を知れば、散策がもっと楽しくなる。
古い集合住宅をリノベしたかわいいカフェやバーめぐりも楽しめた。
ドハーニ通りのシナゴーグ以外にも、ペスト7区は渋さのあるスポットが目白押しだ。あわせて散策することをおすすめしたい。
ドハーニ通りのシナゴーグ(Dohany utcai Zsinagoga) information
住所: Budapest, Dohány u. 2, 1074 ハンガリー
時間:3~10月は10:00~17:00(金曜は~15:30)、11~2月は10:00~15:30(金曜は~13:30)
休:土曜日(シナゴーグは基本土曜日が休み。)
入場料:3600フォリント(約1800円)
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